女装を楽しむ人には、多種多様な嗜好が入り乱れています。そのことについては、以前の記事で解説した通りです。
では実際には、どういう人が女装しているのか? 身近に女装子(じょそこ)や女装家(じょそうか)がいない人にとっては、ピンと来ないかもしれません。そこで今回は、女装をするなかでも最多数派といわれる女装子について、お伝えしたいと思います。
今回インタビューを受けてくれた女装子の伊藤瞳さんは、大きな瞳が印象的。立ち振る舞いがゆったりとしていて、話し方に知性を感じる大人の人物でした。
問1「女装について自分ではどうとらえていますか?」
「人には知られたくない秘密の自分」という位置付けです。世間一般では徐々に受け入れられつつある女装ですが、隣近所や親戚・家族など、狭い範囲の社会ではどうしても公にしたくないというのが本音です。やはりどこかにアブノーマルであるという認識があります。私の場合、時折女装に性的快感が伴っているのも秘密にしたいことの要因になっていると思います。
問2「女装に興味を持ったきっかけは?」
姉の存在が大きかったと思います。小さい頃から姉や、姉の友達と過ごす時間が多く、また自分で言うのはどうかと思いますが、結構、可愛い男の子だったので。それで姉も面白がって女の子の髪飾りを付けたりしました。思春期になると、姉の衣服をこっそりと着たりして楽しみました。だから興味を持った時点で、すでに女装をしていたと言っても良いと思います。
問3「初めて女装したときのエピソードを教えてください」
初めて女装したのは10~12歳くらいでした。ちゃんとした時期は覚えていないのですが……。両親共働きでしたので、姉が出かけると家に一人。そんなときに、姉の下着を着けてみたのが最初です。「女の子ってこんなに可愛いものをつけることができるんだ」と、うらやましく思いました。
問4「本格的な女装を始めるにあたって考えた事はありますか?」
いつの間にか女装の世界に入って行ったので、始める時点でその先のことは考えませんでした。ただし、始めることよりも、この先続けて良いのか悩んだことはあります。とくに好きな女性が現れたときに、深く悩みました。
問5「自分が女装に求めているものは何ですか?」
女性の身につけているものは、男性のものに比べてきらびやかでバラエティーに富んでいます。キュート・カジュアル・ボーイッシュ・セクシー。それらを身につけることが楽しいのです。それと、さっきも言ったように、時には性的快感も伴います。
男性が「女性の下着姿」を官能的にとらえるのと同じように、自分自身がその官能的な姿になっていることが心地よいです。『女装 = 変態』と思われるかもしれませんが、このことに関しては、一般の男性が女性に対して性的な魅力を感じる延長上にある、自然な感情だと思います。
問6「女装した時、もともとの男としての人格はどう変わるのですか?」
人格そのものは変わりません。ただ、女装しているときは、姿勢や仕草を女性らしくするように心がけています。それは人に見られるからではなく、そうしていることが心地よいからです。たとえば、ミニスカートをはいているときは膝を閉じないと、はしたないですし、猫背でいると体のラインが美しくないと思うんです。それにいつもではないですが、表向きは男の姿で見えない所を女装している事もあります。たとえば下着だけ女性のものを付けていたり。ペディキュア(足の爪のネイルアート)をしていたり、なにか女性らしい小物を持っていたり。そうしている方が気分が軽くなるんです。不思議ですね。
問7「持っている洋服、ウィッグの数はどのくらいですか?」
洋服は沢山あります。数えたことはありませんが、クローゼットに半分(残り半分は男性服)。そしてその引き出し二段、カラーボックスふたつ分です。種類はスーツ・カットソー・ミニスカート・膝丈スカート・ワンピース・ニット・パンツ・下着・ストッキングなど、フォーマルな物からカジュアルまで。それに靴・ブーツ・サンダル。ウィッグは沢山欲しいですが、今はふたつしかありません。
問8「それら変身用具の管理方法は?」
洋服はクローゼットなどに。化粧品は鞄。ウィッグはジップロックに入れて同じく鞄に。すべて自分の部屋にあります。とくに隠しているというより、整理して保管しています。
問9「月あたりの女装予算はいくらくらいですか?」
月平均にすると数千円でしょうか。年に二回ほど女装サロンや写真スタジオで撮影してもらっていますので、その時は三万円弱かかってしまいます。無駄遣いはあまりしません。でも、それはだいたいのアイテムをすでにそろえてしまっているからで、これまでに使った予算はおそらく数十万円になると思います。
問10「恋人には秘密? 逆に協力してくれそう?」
付き合い始める時に告白するのがベストだと自分では思っています。女装をしている自分を知ってからの出会いがあれば、一番幸せに思えるのですが……。今まで付き合った方に告白は出来ませんでした。
問11「女装するにあたって目指す女性像は? それは女性の好みと同じですか?」
「好みの女性像」こそが「自分に似合う女装」だと思っています。女装しても性格が変わる訳ではありません。私はどちらかというおっとりとしていて、でも自分の意見ははっきりと言います。好みの女装像もそれに近いものがあります。ただ、もし恋人にしたいと思う女性を「好みの女性像」とすると少し違います。自分よりもストレートで積極的な感じの方に魅力を感じます。
問12「女装の友達や、女装に理解のある友達はいますか?」
残念ながらそのようなお友達はいません。お友達の中に女装に理解がある方はいるはずですが、それをたしかめたことはありません。スタジオで写真を撮っていただいた方、サロンでメイクをして下さった方。この方々を大切な友達と思って接している気がします。相手側はサービスをするお客さんと思っているでしょうから、実際は片思いですね。
問13「女装した時に男性に言いよられたら、どう思いますか?」
そういう経験は無いので、難しい質問ですね。でも、決して悪い気はしないと思います。正直に「私は男性なんですよ。」って言うのでしょうか……。でも、いざ言いよられたらその場から逃げてしまうかもしれません。
問14「もしも面と向かって、嫌悪感をあらわにされたら?」
この人にはどんなに丁寧に説明しても、「女装を素直に受け入れてもらえない」と思える人物は周りにもいます。そういう人とは薄い人間関係しか作りません。それは女装云々ではなく、私自身が自由な考え方に共感するので、人の思想や容姿で差別的な言動がある方は受け入れがたい気持ちがあります。嫌悪感があらわになるというのはその表れの一部だと思います。親しくお付き合い出来ているのであれば、そういう事は無いと思います。ただ、女装している私を知っている方は限られた人物ですし、女装を肯定している方だけですので、嫌悪感を抱かれるという事はありません。街で知らない人にそう思われても、気にしないだけです。
問15「好意のある相手に、「女装を止めろ」と言われたらどうしますか?」
実は私が好意を抱く女性が現れて、女装のアイテムを手放そうと思ったことがあります。実際に一部廃棄してしまいました。でも、それはとても辛い経験で、今でも後悔しています。残念ながらその方とは別れてしまいましたが、最後まで女装のことはお話し出来ませんでした。今は、女装を認めて下さることをお付き合いする条件にしようと思っています。
先日、奥様が旦那様の女装をお手伝いしているという方にお会いしました。お化粧は奥様がなさって、衣服も共有して夫婦生活を楽しんでいるとのことでした。私が憧れるのはそのような生活です。
問16「今後はどうしていきたいですか?」
それはいつも考えることです。女装だけにとどまらず、これから先どう生きて行くかということでもあります。でも、そのなかで女装は常に(自分の人生と)一緒にあると思っています。だから「何歳まで続けるか」という考え方はしていません。女性が歳をとって行くと、好みのファッションが変化して行くように、私の女装のスタイルも変化して行くと思います。今は30代以下の若い女性のファッションに興味があります。歳と共にファッションの興味も、上の年代へと上がって行くものだと思います。
女装の楽しみ方は人それぞれ。今回お話を伺った瞳さんは、「自分だけの時間として楽しむ大切なこと」、そんな印象を受けました。女装。それは趣味なのか、生き方なのか? 少なくともそこには、単純な一過性のもので済まないような、甘い魅力があるようです。心の中に、女性への憧れがある限りは……。
執筆: 女装カメラマン・立花奈央子 公式サイト / Twitter
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