「くず餅」は植物の葛が使われているとは限らず、東西で別モノらしい → どう違うのか? 今まで食べてきたのは何だったのか?

先日ネットで、関東と関西における「くず餅」は別物……そして関東で一般的な「くず餅」は葛が使われていないという話を知った。この世のあらゆる「くず餅」は植物の葛が原料だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

それにしても、東西のくず餅はどう違うのだろう。ここは食べ比べてみるしかあるまい。それともう一つ。今まで葛を使ったくず餅だと思って食べてきたその辺で売ってる「くず餅」は、いったい何だったのだろうか? こちらも明らかにする必要があるだろう。

・くず餅のイメージ

まず筆者のイメージする「くず餅」とは、半透明でプルプルした甘いやつだ。関東と関西で違うということなので、日本人が「くず餅」と聞いてイメージするものは、それぞれの出身地や故郷に大きな影響を受けると思われる。

しかし、筆者には出身地も故郷も無い。いわゆる転勤族だったため、全国を数年おきに転々としたタイプ。産まれた場所としての出身地であれば北海道と言えるのだが、ガチに産まれただけ。育った場所という意味での出身地については、それこそ「日本列島」とでも答えるしかない。

ゆえに、筆者の中に出来上がっていた「くず餅」のイメージが、どこか特定の土地特有のものとは考えにくい。また、くず餅は子供のころからそれなりに食べてきたが、それらは全てスーパーやコンビニで買った数百円程度のものだと思う。

以上の点から、恐れながらも筆者のイメージする「半透明でプルプルした甘いやつ」は、「全国で最も庶民向けに普及しているくず餅」なのではないか……と思う。そして、子供のころにその半透明な「くず餅」が植物の葛の粉から作ると教わり、30年以上もそれを信じて生きてきた。

昨今でも、その辺で買った「くず餅」を植物の葛のものだと信じて食べている。そして筆者は現在関東在住。ということは、最近食べている「くず餅」も、もしかして葛とは無関係なのだろうか? そういえば原材料をチェックしたことは1度も無かった

・東西における違い

疑問を一つずつ解消していこう。まずは関東と関西……東西のくず餅は別モノだという点からだ。ググってみると、2015年に日本経済新聞がこのテーマについて報じた記事を発見。

それによると、関西でよく見られる「くず餅」こそが植物の葛で、関東の「くず餅」は小麦を発酵させて作るという。見た目も違っており、関西の葛を使用したモノは半透明だが、関東の小麦を使用したモノは白いようだ。

日経新聞の記者は、「関東出身の私が親しんだのは、ひし形に切った白っぽい餅」と述べている。ふむ、関東に住んだ時間はトータルで10年ほどになるが、「ひし形の白っぽい餅」と筆者のイメージする「くず餅」は一致しない。人生の1/3も過ごしてるのに、関東で一般的な「くず餅」を食べてないということだろうか? 

・くず餅オールスター戦

案ずるよりなんとやらだ。実際に東西を代表する由緒あるメーカーの「くず餅」を同時に見比べてみることに。関西代表は、京都の仙太郎から『本当くずもち』。税込み594円。

そして、奈良の松屋本店から『吉野紀行』。税込み907円。

関東代表は東京の船橋屋から『元祖 くず餅』。税込み790円。

関西代表が2つあるのは、松屋本店のHPにて気になる記述を発見したからだ。どうやら「くず餅」に使われる葛粉には、葛のでんぷん100%な『吉野本葛』と、全体量の50%以上という規格な『吉野葛』の2種類があるらしい。

電話で確認したところ『吉野紀行』に使われているのは『吉野葛』だという。葛率100%なくず餅も気になるので、『吉野本葛』を使用した仙太郎の『本当くずもち』も用意したのだ。それぞれのメーカーについての詳細は省くが、どれもまごうこと無き名店。詳しくは各社のHPをご覧いただきたい。

・葛100%『本当くずもち』

まずは葛100%な『本当くずもち』。まさに良く知る「くず餅」に近い外見。形状を自力で維持する程度の硬さはあるが、イメージにある「くず餅」よりはかなり柔らかく、粘度も高い。

食べてみると、かなり甘い。よく知っている「くず餅」よりも甘い。しかし、砂糖の甘さとは違って、どこか野性味を感じる。見た目こそ「くず餅」のイメージ通りだが、味や食感は見知った「くず餅」とは別モノだ。きっと葛100%か否かの違いだろう。

・葛50%以上『吉野紀行』

葛がおよそ50%な『吉野紀行』は、残り50%がサツマイモ由来のでんぷんだとか。半透明で、色は黄色がかっている。それなりに硬さがあり、コンニャクゼリーにやや粘性を与えた感じ。黄色い点を除けば、イメージ通りな「くず餅」といえよう。

葛100%の『本当くずもち』と比べると、何やら独特の匂いがする。成分的にサツマイモのものだろうか? 食感もやはりコンニャクゼリーに似ている。外見が『本当くずもち』で、甘さを『吉野紀行』くらいにしたものが、幼少期から食べてきた「くず餅」のイメージに近い気がする。

・小麦由来な『元祖 くず餅』

そして関東の『元祖 くず餅』。なるほど、白っぽくてひし形。日経新聞の記者が言っていたのはこれに違いない。そして筆者的には見るのも食べるのも初めて。スーパーやコンビニで似たようなモノが売られているところも見たことがない。

発酵食品らしく、表面には気泡的な小さい穴が無数に見受けられる。3つの中で最も硬く、弾力があるのも特徴的だ。味も明らかに小麦だとわかる感じ。甘さは3つの中で最も控えめで、黒蜜やきな粉と共に食べることで真価を発揮するように思える。

「関東の」とはいっても関東発祥なだけで、多分関東でも一般的ではないと思う。知らない人の方が多いのではなかろうか。最も多くの販売拠点を持っているのは亀戸天神に本店を構える船橋屋だと思われるが、それらは自前の店舗か百貨店等の和菓子コーナー。

それ以外のお店については大田区の池上本門寺周辺、そして神奈川県川崎市の川崎大師周辺で、それなりに格調高そうな甘味処が、時には「久寿餅」という表記で小麦を発酵させて作る同様のものを提供しているようだ。わりと高級和菓子と呼んでいい扱いだと思う。

関東発祥ではあるが、関東でも食べられるのはごく一部の地域や店舗。それ以外の場所ではなかなか目にする機会はないというのが、関東の「くず餅」の実際のところだと思う。

・たぶん認知度も普及率もNo.1 その辺で買える「くず餅」

では最後に、恐らくは最も日本全域で普及していると思われるタイプの「くず餅」も食べてみよう。近所のローソンで買ってきたものだ。パッケージが違うだけで、似たようなものは、コンビニ各社はもちろん、恐らく西友等の全国チェーンのスーパーなどでも買えるはず。シェア率No.1で、最も多くの人がイメージする「くず餅」はきっとこのタイプ。

味についてはもはや語るまでもなかろう。まさに幼少期から慣れ親しんだ「くず餅」。日本のどこに行っても「くず餅」として出てくるのはコイツだった。量産型コモンくず餅とでも呼ぶべき存在。外見的に最も似ているのは、葛100%な『本当くずもち』だと思う。食感や甘さ的には『吉野紀行』が近い気がする。

・一般的な「くず餅」の正体

このコモンくず餅は、一体何でできているのだろうか? 葛なのか小麦なのか? 関東ベースなのか関西ベースなのか? それとも、実は葛も小麦も使われていない全く別な第三の勢力だったりするのだろうか? 気になる原料は……

水飴、砂糖、葛粉、ゲル化剤、増粘剤

一応植物の葛から作った粉が入っている。ところで、この記事を書こうと決めてからの1カ月ほどの間、行く先々でコンビニやスーパーの「くず餅」をそれとなくチェックしてきた筆者。

今回比較した「くず餅」たちには入っていないが、葛粉に寒天を混ぜたタイプも割と多い印象を受けた。日本全国のコモンくず餅は、大体が葛粉に増粘剤と水飴や寒天を入れてコストを抑えていると思われる。

・「関東の」「関西の」というよりは

結果的に純粋な葛粉の割合はめちゃくちゃ低くなっていそうだが、植物の葛が入っているのは間違いない。その点から、コモンくず餅は、流派的には関西の「くず餅」だと考えていいのではなかろうか。

まとめると、関西発祥の「くず餅」は葛で、関東発祥の「くず餅」は小麦。そして全国で一般的な「くず餅」は、葛の使用率を下げ、代わりにゲル化剤等を使用してコストを下げた関西流の量産型という感じか。

最後に些細な点について一つ。これら「くず餅」に関する話について、「関東の」や「関西の」等という表現は間違ってはいないが違和感がある。日本全国で一般的な「くず餅」は関西発祥で、関東には一部で同名の別の食べ物が存在する……的な表現の方が実情に即すると思うのだが、どうだろう。

参照元:日本経済新聞仙太郎松屋本店船橋屋
Report:江川資具
Photo:RocketNews24.



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