銚子電鉄の「ぬれ煎餅」を初めて食べた者が受けた衝撃について / 先入観を吹き飛ばすクオリティ
『ぬれどら焼き』の濡れ具合が想定外でビビった / どら焼きをなぜ濡らすのか知りたくて購入したら…
【最強激突】なんでも乾かす夏の日差し VS ぬれせんべい / 6時間に及ぶ勝負の末、衝撃の結果に!
ジジジジ…! そんな音が聞こえそうな太陽光線。アスファルトからは体を燃やさんばかりに熱気が立ち上る。フライパンの上の肉はこんな気持ちなのかもしれない。
自然、洗濯物もめちゃんこ乾く。特に私(中澤)の家のベランダは日当たりが良いので瞬殺だ。こんなに乾くなら、ぬれせんべいも乾くんじゃないだろうか?
・ファイッ!
というわけで、やってまいりました世紀の対決。赤コーナー! 濡れたものには容赦しねぇ!! 対洗濯物戦では向かうところ敵なし! 夏の~日差し~!!
続いて青コーナー! 俺を乾かしたら大したもんだよ!! ゆりかごから墓場まで濡れ続けることがアイデンティティー! ぬれ~せんべい~!!
ルールは2時間3ラウンド。ぬれせんべい3個を干し、2時間ごとに1個ずつ食べていく。陽がベランダに当たるゴールデンタイムの6時間で、ぬれせんべいが乾燥したら夏の日差しの勝ち、しめり気を帯びたままならぬれせんべいの勝ちだ。それでは両者見合って……
ファイッ!!
・夏の日差しが有利か
全く予想がつかないこの勝負。素人ながら見解を述べさせてもらうと、夏の日差しがやや有利な気もする。なぜなら、夏の日差しは1回乾かした時点で1本決着。対して、ぬれせんべい側は夏の日差しをKOすることはできないからだ。
そう、言わばぬれせんべいはサンドバック状態なのである。まさに矛と盾の戦い。大自然の猛威を見せつけるか、夏の日差し! はたまた、人類の英知が防ぎきるのか、ぬれせんべい!! これは自然と人類の戦いと言い換えても良いだろう。
・1ラウンド終了
そして、固唾を呑む2時間が経過した。まずは、第1ラウンドが終了。同時に干し始めたスーツのスラックスはパリッと乾いている。改めて夏の日差しの猛攻を感じずにはいられない。
さて、ぬれせんべいはと言うと……
見た目的には変わっていないように見える。家の中にいたぬれせんべいと並べてみても、つまみの跡がなければ、どちらがどちらか見分けられないレベルだ。食べ比べてみたところ……
固くなっている!?
パンのようにモチッとしていたぬれせんべいが、少しだけだが、噛み切りにくい芯のある食感となっている。平気な顔をしちゃいるが、疲労は確実にぬれせんべいをむしばんでいるのだ。
・過酷な時間
だが、窓の外では第2ラウンドのゴングがすでに鳴っている。そして、この第2ラウンドこそ、ぬれせんべいにとって最も過酷な時間となるかもしれない。
なぜならば、一番気温の高くなる真昼間ど真ん中だからだ。今まさに様子をうかがっていた太陽が、襲い掛かってくるタイミングであり、1990年代後半から2000年のK-1で例えると、ピーター・アーツもそろそろハイキックを使ってくる頃合いである。
そのためか、ぬれせんべいの表情にも緊張が走る。さらに固さが増している気がするのだ。私は声をかけずにはいられなかった。「大丈夫か? まだやれるか? ぬれせんべい!」と。
しかし、ぬれせんべいのまなざしはゆるぎない。ここで止めてしまうのは、はたしてこの対決にとって良いことなのだろうか? 答えは否である。そして、苦しい2時間が終了。同時に干し始めた水をたっぷり吸った大判バスタオルもふわふわだ。
・第2ラウンド終了
もはや口もきけないぬれせんべい。家の中にいたぬれせんべいと並べてみても、色が薄い部分が広がっている気がする。
さらに、柔軟性は確実に失われているようだ。つまむと、指先に湿り気を感じはするが、持ち上げるだけでクニャッと曲がっていた柔らかさは見る影もない。食べ比べてみると……
若干「パリッ感」を感じる部分まであるではないか……! もちろん、普通のせんべいほどパリッパリではないにしても、それに向かっている雰囲気が見受けられる。やはり、人類は自然には勝てないのか? 絶望の中、第3ラウンドのゴングが鳴った。
・人類の黄昏
傾き始めた太陽は、いまだサンサンとベランダに差し込む。やがてそれは猛烈な西日となってぬれせんべいに襲いかかった。世界が……いや、神がこの対決の幕を下ろそうとするかのような黄昏だ。
夕暮れに染まるぬれせんべいの横顔。
俺たちは間違っていたのか?
やはり無謀な戦いだったのだろうか?
だが、ぬれせんべいは答えない。
そして、陽が暮れた──。
・衝撃の結果
ゴングだ。第3ラウンド終了である。同時に干したスーツジャケットは分厚い肩の裏までカラカラ。太陽最後の猛攻だったと言えるのではないだろうか。
では、ぬれせんべいはどうなったかと言うと……
微妙に全体の色が薄くなっている。
乾いてしまったのか? 問いかけても、ぬれせんべいの声は聞こえない。確かめるためには食べる他ないだろう。考えてみたらいつだって俺たちはそうやってきたじゃないか。なあ、ぬれせんべい。聞かせてくれよ、お前の声を。
ハムハム。
こ、これは……
湿気が戻っているッ……!?
具体的な食感としては第1ラウンド終わりくらい。夕暮れになって周りの湿気を吸ったのかもしれないが、その湿気へのアグレッシブさは驚くほかない。言うまでもなく、この対決はぬれせんべいの勝ちだ。あいつ、やりやがった!
・神の理に反するシステム
しかし、夏の日差しの猛攻を防ぐどころか、自然の力を利用して回復までしてしまうなんてまるで永久機関である。人類は恐ろしいものを生みだしてしまった。
ひょっとしたら、文明が滅亡した後も、ぬれせんべいは濡れ続けるのかもしれない。エントロピー増大の法則を突破した神の理に反するシステム・ぬれせんべい。それは人類が残したたった1つの希望……
──お母さん、これなあに?
──これはね、ぬれせんべいって言うのよ。
──ぬれせんべいってなあに?
──私達が生まれるずーっと前にね、お空の遠くにある故郷の星から、ご先祖様が持ってきたものなの。
──でも、なんで濡れてるの?
──それはね、みんなの涙を吸い込んだからよ。
──へー! スゴイや!! 僕もぬれせんべいになる!
──あらあらウフフ
~fin~
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.