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会社から全社員解雇が通知された日に50℃の熱風が吹き荒れるアフリカの「アッサル湖」に1人でバスを貸し切って行った話

日本から約1万キロ離れたアフリカ北東部のジブチ共和国といえば、非公式ながら最高気温71.5度を記録した酷暑の地として知られている。どのくらいの暑さかというと、飛んでいる鳥が失神して落ちてくるほどの暑さだ。おそらく火の鳥でも「暑い」と言うだろう。

そんなジブチで最もメジャーな観光地がアッサル湖である。湖水は地球上で最も塩分濃度が高く、「パールソルト」と呼ばれる “まるで真珠のような塩” が採れる人気スポット……なのだが、実を言うと数年前の夏、私は現地のバスを1台貸し切ってアッサル湖へと向かっていた。

・地獄を味わった夏

ジブチ最後の思い出にアッサル湖でも行くか。そう決意したのは、数年前の夏。何があったのかと言うと、私はジブチ共和国内にある日本法人の施設内で働いていたのだが、会社がヤバ過ぎるトラブルを起こして、いきなり全社員の解雇 & 帰国が決定した。ウソだろ。

さらに同タイミングで、入学手続きを済ませていたフランス語学校から「暑すぎて生徒が集まりませんでした」と連絡があり、先払いしていた入学金約2万円分のジブチフランが返金されることに。帰国は翌日、手元に2万円分のジブチフラン……行くしかねえだろ、今からアッサル湖に。時刻は14時過ぎだった。

──たとえ地獄のような環境でも、仕事を頑張りながら語学もマスターする。高い志を持ってジブチ国際空港に降り立った数カ月前の自分に言ってやりたい。「ここはただの地獄だ」と。しかし、ジブチ最後の思い出に絶景を眺めれば「良い国だった」と思えるだろう。

・ジブチ市から約100キロ

アッサル湖は、ジブチ共和国の首都ジブチ市から約100キロ離れているため、車をチャーターする必要がある。ツアー会社で予約をするのがベターだが、昼間は暑くてどこも営業していない(ってか、営業しているのを見たことがない)し、「今から行く」と言ってもきっと無理。

ってことで、最初に通りかかったタクシーの運転手に「アッサル湖に行きたい」と伝えると「とりあえず乗れ」と言われた。かなりボロボロのタクシーだ。フロントガラスも割れている。スッゲー不安……だけど、アッサル湖に行きたいという思いが勝り、乗車。しかし。

走り出した瞬間に「俺が運転をするから道案内をよろしく」と運転手。いや待て、100キロ先の湖まで道案内なんてできるかよ。ってか知らねえよ……とは言えなかった。ボロ車で市内を走るドライバーが、アッサル湖までの道順を知らないのも当然だと思ったからだ。

とはいえ、野生の勘を頼りに走り続けるタクシーに乗っていても目的地には到着しないだろう。そんな時、運転手は休憩中のバスを発見し「アッサル湖まで行く道を聞いてくる」と言ってバスの元へ。数分後、すべての事情を把握したバスの運転手が近づいてきて……

2万円だな。バスに乗れ」と頼もしい一言。マジかよ。とりあえず、ありったけの小銭をタクシードライバーに渡してバスに乗り換えた。どうやらバスの運転手、2万円でテンションが上がっているらしい。よし、オレンジ色のド派手なバスを貸し切って、100キロ先のアッサル湖へ!

・荒れ果てた道

ボンッボンッとバウンドしながら、地獄のような一本道を走っていく。陽気な音楽に合わせてパッパーッと鳴らすクラクション……もしかして、これも2万円の効果なのだろうか。テンションの上がり方が尋常ではない。

・激しい熱風

見渡す限り広がる赤茶けた大地。換気をするために窓をほんの少し開けたら、激しい熱風が車内に吹き荒れた。すぐに窓を閉めた。

途中、路肩にバスをとめて運転手と仲間たちは食事休憩。彼らはトウモロコシのようなものを勢いよく口に運んでいた。運転手曰く、もう少しでアッサル湖に到着するらしい。だったら、なぜ今トウモロコシ。まあでも、いよいよ念願のアッサル湖だ。

休憩を終えて再び走り出すと、ひたすら延びる一本道の先に、湖に浮かぶ丸い島が見えた。運転手が笑顔で振り返り「あれを見ろ!」と言う。雄叫びを上げて踊りだす仲間たち。しかし待ってくれ。あれは……

グベ湖だ。

ジブチ市から見て、アッサル湖の手前にあるのがグベ湖である。つまり、アッサル湖はもう少し先。全員で地図を確認したら、ほんの少し手前で曲がっていたことがわかった。運転手は「グベ湖もアッサル湖も同じだから帰ろう」と言うが、そんなわけはない。ここまで来たのに引き返せるかよ。

・アッサル湖

そんなこんなで、グベ湖から約30分……とうとう、とうとう着いたぞ。ここがアフリカ大陸最低標高地点、海抜マイナス153mにあるアッサル湖だ。塩の結晶に覆われている湖は、まるで降り積もった雪のよう。約50度の熱風が吹きつけている世界とは思えない。

ただ、グベ湖を見て1度歓声を上げたからなのか、アッサル湖に着いた時は意外とみんな冷静だった。とはいえ、想像以上の絶景を心の底から堪能することができて達成感はMAXだ。ちなみに、ここで採れる塩は、ラクダのキャラバンでエチオピアまで運ばれるらしい。

そしてやはり、自然の神秘を堪能していたら、ジブチでの生活も悪くなかったと思えた。その後、お土産の塩を買って、19時過ぎに社員寮に帰宅。良い1日だった……。

さて、そのままジブチ最終日の打ち上げに参加……したのだが、アッサル湖に行ってきた話は早々に終了し、話題はほとんど会社のグチであった。まあ、そうなりますよね。あの夏は間違いなく地獄だった。

Report:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.



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