シベリア鉄道の食堂車のボルシチが「最強の味」だった件 / シェフ一家が客とともに旅をする

シベリア鉄道の食堂車のボルシチが「最強の味」だった件 / シェフ一家が客とともに旅をする

北京からモスクワまで、鉄道で旅をすることができる。モスクワまで行けばウクライナやポーランドを経由してドイツやフランス、イギリスまで行くことができる。つまり北京は鉄道でヨーロッパと繋がっているというわけだ。

北京からモスクワまで走っているシベリア鉄道には、3種類の食堂車が連結する。中国国内は中華料理の、モンゴルではモンゴル料理の、ロシアではロシア料理の食堂車が連結される。

筆者(私)は2か月ほどかけて北京からイタリアまでの取材旅行をしたが、シベリア鉄道で食べたボルシチの味が忘れられないほど美味だったのを覚えている。今回の旅で、その味を越えるボルシチに出会うことはなかった。

モンゴルのスフバートルで出国手続きをし、ロシアのナウシキで入国手続きをする。その際、モンゴルの食堂車が切り離され、ロシアの食堂車が連結される。食堂車のシェフとウェイトレス2名は家族で、列車とともに移動しながら生活しているようだ(もちろんモスクワに家はあるだろうが)。

恰幅の良いシェフが英語表記のメニューを手渡してくれた。彼は無愛想でツンとしているし、ウェイトレスに非常に厳しいシェフだが、客の筆者には丁寧に対応。メニューを見ると価格がユーロになっていた。シェフに聞くと「ドルでもユーロでもいいよ。モンゴルとか中国はダメ」とのこと。

とりあえずシェフがオススメの壺ボルシチを注文。やっぱりロシアにやってきたらボルシチを食べないと! ほかにも温かい牛乳、トマトのサワークリームがけ、フライドポテトとチキンソテーのピクルス添え、ビールを注文。わかってる。食い過ぎである。

目の前に出されたボルシチは壺に入っており、茶褐色のスープに純白のクリームが浮いている。具はビーツと玉ねぎ、カブ、鶏肉などが入っているようだ。油がたっぷりと入っているように見えたが、むしろ油は少なめで、表面に膜を作っているのは溶けた野菜の繊維と調味料。

ひとくち食べてみると……。なんなんだこれは! しばし、しばし、しばし待たれい! 感動しすぎてどう言えばいいのかわからない! こんな美味しいボルシチに、ロシアに入国したばかりで出会ってもいいの!? 今まで日本で食べていたボルシチはなんだったの!?

やや酸味のある調味料が、野菜が砕けたスープになじみ、その味がかろうじて固形を保っている具にも浸透。ほどよい塩分がダシと出会って相乗効果を生み出し、アクセントとしてクリームが芳醇な味わいを奏でる。完璧だ。完璧なボルシチだ。

外国人が日本にやってきて、本場の寿司やラーメンの味に感動することがあると聞いたことがある。いままさに、筆者はそれと同じ感動を得ているといえよう。

エアコンが壊れて極寒のなかシベリア鉄道に乗っていた筆者。そんな状態で、身も心も温めてくれたボルシチ。これを食べるためだけにシベリア鉄道に乗ってもいい。そう思える本場の味であった。

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Correspondent: Kuzo


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