東京を中心に全国展開している大手スーパー「西友」。その名を聞いて大抵の利用者が思い浮かべる特徴と言えば、強気な低価格路線や安定した品揃えだろう。しかし嘆かわしいかな、そうした表層ばかりに目が向けられ、同店に「人間を狂わせる杏仁豆腐屋」としての側面があることはあまり知られていない。
一体どういうことなのかと動揺した方も多いと思うので、以降からその側面について詳しく語っていきたい。西友の杏仁豆腐に狂わされた者の1人として。
「杏仁豆腐 みかん」。それが本記事の主役の正式名称である。西友のプライベートブランド「みなさまのお墨付き」から発売されていることも付記しておく。
そもそも筆者は杏仁豆腐というものに対して好悪の感情を持たず、極めてニュートラルな立場を取っていた。そんな人間がこの商品を手に取ったのは、本当に気まぐれと言うほかない。たまには食べてみるかという程度だ。結果として、そのささいな気まぐれが筆者の理性を粉々に打ち砕くこととなった。
西友ブランドの商品ゆえ、一定以上の品質が保証されているのはわかっていた。しかし天を翔ける勢いでそのハードルさえ越えていくとは想像だにしなかったのである。
そこまで言うならこの杏仁豆腐には何か度肝を抜くような仕掛けが隠されているのかと思われるかもしれない。が、そうでもない。カップの蓋を開けたなら、白一色の光景がお目見えする。「みかん」の「み」の字すらない。プレーンを絵に描いたようである。
ところが一口食べてみれば、舌を通して静かに奥深さが伝わってくる。杏仁豆腐を描写する上で適切な表現かはわからないが、しっとりと脂がのっているのだ。とろみがあり、コクがある。
それでいて甘ったるすぎることはなく、清涼感とともに喉を通っていく。杏仁豆腐特有のクセのある匂いも比較的薄く、食べやすい。ひたすらに美味しく、どこまでも飽きない。少ないながら今まで食べた杏仁豆腐の中でも、間違いなく最上位の味わいだと断言できる。
杏仁豆腐に興味のなかった人間が、最近は冷蔵庫から西友の杏仁豆腐を切らさないようになった。ストックを絶やしたが最後、大いに平静さを失うことが目に見えているからだ。ほぼほぼ精神安定剤である。
そして美味しさに加えて書いておかねばならないのが、西友の他の商品と同じようにリーズナブルである点だ。価格は税込96円。100円以下でこれほどの幸福が手に入ってしまうのはコストパフォーマンスが高い。
杏仁豆腐に興味のなかった人間が、最近はあらゆるジャンルの商品の価格を「西友の杏仁豆腐換算」で考えるようになってしまった。500円なら5個分の、1000円なら10個分の杏仁豆腐の幻覚が眼前に浮かぶのである。これを「狂わされた」と言わずして何と言うのか。
目を見張るような図抜けた特質があるわけではないが、文句のつけようがない一品。それが西友の杏仁豆腐だ。正直、知らなければ高級中華料理店の杏仁豆腐と言われても信じそうになる。そんな代物が巷(ちまた)のスーパーに安価で紛れ込んでいるのだから恐ろしい。
強いて粗探しをするなら、商品名に反してみかんの量が少ない点は否めない。だが白い杏仁豆腐の部分が美味しすぎるあまり、みかんの割合が低いことが段々メリットに思えてくるので、個人的にはさほど気になっていない。
ともあれ、いかにして筆者がこの商品に狂わされ、どれだけこの商品を推しているかは伝わったかと思う。知られざる事実が知られないままなのは非常に口惜しい。ぜひともできるだけ多くの方に、西友の「白い暗部」に触れていただきたい。
参照元:西友「杏仁豆腐 みかん」商品ページ
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.