自分の中に潜む差別意識を正直に話すことは誰にとっても難しいはずだ。性差別、人種差別など差別の形は色々あるが、差別する心をオープンに語ることにはためらう人がほとんどだろう。
今回紹介したいのは、米ニューアーク市長のコリー・ブッカー氏が、スタンフォード大学在学中の1990年に大学新聞に書いたコラムだ。彼はそこで同性愛者を嫌悪していた過去を告白し、差別の根源にあった自分自身の問題を綴っている。20年以上も前の記事であるが、彼の告白は今も多くの人々の共感を呼んでいる。
●常に行動が注目を呼ぶコリー・ブッカー市長
コリー・ブッカー市長はマンハッタンに近接するニューアーク市の市長を2006年より務めている。斬新な行動力、リーダーシップの持ち主であること示すエピソードに事欠かない。
たとえば市議会議員時代には、麻薬取引で治安の悪い地域のパトロール強化を訴えるため、10日間飲まず食わずのストライキを決行して、注目を浴びた。市長になってからも、貧困層の食生活を理解するために公的な食料費補助制度であるフードスタンプのお金で自ら1週間生活してみるという実験を行い、その結果をYoutubeで報告し話題になった。
このように大胆な行動力で注目を集めることの多いブッカー氏だが、今、彼の人となり、考え方を示す過去の資料が話題となっている。23年前、スタンフォード大学在学中に大学新聞に書いた一つのコラムだ。そこで彼は、同性愛者を嫌悪していた過去を告白しているのだ。
●「ゲイが嫌いだった」過去を告白
「私はゲイに対して寛容であろう、つまり “誰かがゲイであったとしても、自分に迷惑がかからない限り気にしないでいよう” という段階にあった」1990年にブッカー氏がスタンフォードの大学新聞に書いたコラムはこうスタートする。
同性愛者の存在に対して寛容であろうと努めながらも「本心をさらすことはできなかった。ゲイに対する嫌悪感があった。いや、過去を遠回しに語ることはやめて、もっとはっきり言わせてもらえば、ゲイが嫌いだったんだ」と告白している。
続けて、同性愛者との身体の接触を避けていたことや、同性愛者と一緒に過ごすときに違和感や居心地の悪さを禁じ得なかったことを綴っている。
●同性愛者に対する嫌悪感の根源に気付いたきっかけ
こうした同性愛者に対する負の感情が変化したのは、大学1年の時に同性愛者であるカウンセラーと話をした時だったという。そのカウンセラーはブッカー氏に、同性愛者として味わった苦痛を語った。
見知らぬ人や家族から暴力を受けたこと、持ち物を壊されたこと、誹謗中傷を受けたこと。周囲に拒絶されてきた過去と周囲から浮いていることに傷ついてきた過去を告白したのだ。
そんな彼の告白を聞きながらブッカー氏の頭によみがえってきたのは、祖父母から聞いたアメリカで黒人として生きることの苦労だったという。
「ぞっとした。彼の告白は祖父母が黒人として生きてきたことについて、かつて私に話した内容と非常に似ていたからだ。当時人々は黒人と同じものを食べることを嫌がり、黒人に正しい生き方を教えるためには暴力を与えなければならないと感じていた」
この共通点の発見を通して、彼は自分のゲイに対する嫌悪感の根源がどこにあるのか向き合ったという。「嫌悪の根源はゲイに対するものではなく、僕自身にあることを悟った。これは僕自身の問題だったんだ。ゲイを許容するのではなく、温かく受け入れなければならないと感じた」
そして、彼はコラムをこう締めくくっている。
「非難の矛先がまさに自分自身に向けられているときには、決して他人を非難すまい。とはいえ、自分がゲイだと思われたときには自己弁護に走ってしまったり、他人がゲイを誹謗中傷するのを聞いても沈黙してしまうことがある。こうしたことは非常につらい。自分自身の正義のための闘いを続けなければならない。これは私にとって最も重要な挑戦だ」
自分の中にある差別意識を認めること、その根源がどこにあるのかを見つめること、ましてやそれを正直に他人に語ることは簡単なことではないと記者は思う。だからこそ、彼のこうした個人的な告白は、23年後の今も人々の共感を呼んでいる。
また、同性愛者が今よりも社会的に受け入れられていなかった当時に、こうした見識と自らの差別意識との葛藤を告白する勇気を持っていたことに多くの読者は感嘆しているようだ。
なお、アメリカ各州でさかんに議論されている同性結婚の合法化に関しては、ブッカー氏はもちろん支持の立場である。2014年の上院選挙の出馬も含めて、今後の彼の政治活動にもますます目が離せない。
(文=佐藤 ゆき)
参照元:Youtube CoryBookerdotcom、BuzzFeed、THE WEEK(英文)
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オリジナル記事: 「嫌悪の根源は自分自身にあった」米ニューアーク市長が告白した同性愛者を嫌悪していた過去
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