自分(佐藤)は丈夫だと思っていた。長らく病院の世話になっておらず、年に1回風邪をひくかひかないか。そんな人生を20年以上過ごしてきたから、このまま健康なジジイになるに違いないと思っていた。
しかし「老い」には勝てないらしい。思わぬタイミングで「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」にかかってしまい、かなり気が滅入っている。そんななかで、とても良い薬剤師さんに出会い、なんだか心が救われる気分になった。
・病気の始まり
帯状疱疹は「水ぼうそう」にかかった経験のある人なら、誰でもかかる病気だ。免疫力が落ちたり疲労がたまったり、老化が進むとウイルスがいたずらをして、神経に沿って疱疹が出たり、痛みが出たりすると言われている。
最近身体の変化に人一番敏感になっていた私は、しっかりとその病気の始まりを記憶している。2020年11月1日の朝、起きた時から腹部がピリピリと痛んだ。しばらく様子を見ようと思っていたところ、11月4日の朝、シャワーを浴びた時に右脇腹に発疹を発見し、すぐに近くの内科に駆け込んだ。
案の定、帯状疱疹と判明。その病院の先生は「早く薬を飲めば、その分、早く治りますから」と仰るので、それを聞いてずいぶん安心した。
・薬剤師さんは……
その足で処方箋を持って、薬局に行くと、薬剤師さんが妙なことを言う。
薬剤師さん「普通この薬(処方された薬)は2錠ずつ飲むんですけど、ここに1回1錠とあるんですよね。ちょっと変なので、(受診した病院の)先生に聞いてみますね」
こんなことってあるのか? 私がいくら考えたところで、知識がないから良いも悪いもわからない。少なくとも診療してくれた先生の言いつけを守るよりほかないだろう。薬剤師さんは電話で先生に問い合わせてくれた。
その結果、やっぱり処方通りに薬を飲むとのことだった。薬が効けば直に治るだろう。それにしてもいい薬剤師さんだな。また何かあったら、ここの薬局に来よう。そんなことを思いながら、薬局を後にした。
・2日後に再診
薬剤師さんとの再会の機会はすぐに来た。
5日分の薬を飲み切ったら、再度病院に行く予定だったが、どうにも痛みがおさまる気配がない。いやむしろ、痛みの周期が短くなってきている。おかしい! 薬が効いてないんじゃないか? 初診から2日後に病院を訪ね、
佐藤「痛みがおさまらないんですけど。むしろ痛くなってる気がするのは、寒さのせいでしょうか?」
先生「この病気はね、治るのに時間がかかるんです。耐えられないですか?」
佐藤「いや……まあ、耐えられないか? と聞かれたら、耐えられますけど。痛いです」
先生「分かりました。じゃあ、痛み止めを出しておきますね」
そして新しい処方箋を持って、再び薬局へ行った。すると薬剤師さんは……。
薬剤師さん「痛み止めはねえ……。対症療法なんですよ。痛みを一時的に和らげるのに効果はあるんですけどね……。皮膚科を受診されたらどうですか?」
まさか、薬局で別の病院を勧められるとは。普段薬の世話になる機会が少ないからビックリしてしまった。そんなことってあるんだなあ。やっぱりこの人、いい薬剤師さんだ。
・ごめんなさいね
それからさらに3日後。私が最初に痛みを感じた日から8日が経っていた。その段階で、最初に処方された薬は飲み切っていた。皮膚科に行き、事情を話すと皮膚科の先生はとても気の毒そうな顔で私を見た。
皮膚科の先生「あの、この薬(最初に処方された薬)は通常2錠ずつ飲むものなんですよ。1錠じゃあまり効果があると言えないものなんですよね。少し強めの薬を出しておきます。それから頓服薬(症状が出た時に服用する薬)としてロキソニンを出します。それと患部の塗り薬もね」
佐藤「何か安心しました」
そういうと、皮膚科の先生は「ごめんなさいね」と仰った。
皮膚科の先生「帯状疱疹は対処が早ければ早いほど良いんですけど、少し時間が経ってしまいましたね」
あなたが謝る必要はないのに。むしろ、誰のせいでもない。私の身体に、多少後遺症的に痛みが残ったとしても、誰かが悪意をもってそうした訳じゃないんだから。私の望む形で快復しないのかもしれないことを、気の毒に思ってくれたのだろう。いい先生だな。
・自分のことのように
さて、再び処方箋を持って薬局に行くと、その処方内容を見た薬剤師さんは開口一番に
薬剤師さん「よかったですね!」
と喜んでくれた。そうして、いつものように懇切丁寧に薬の服用の仕方を教えてくれたのであった。こんな風になって初めて気づく、「健康で当たり前」な訳ないよな。誰かが自分の健康を守ってくれてるんだ。だから、こうしていざという時に、力になってくれる人がたくさんいる。ひとつも気づかなかったよ。
病院を移って処方された薬が変わっただけで、自分のことのように喜んでくれる。そんな優しい薬剤師さんが近くに居てよかった。早く治そう。
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24